この記事を読んでいて、思い出したことがある。
ピザの宅配はどこまで来てくれるのか? | Excite エキサイト
時に5年前。ある冬の日の都内某所。日本で最も高貴なお方である人の実家の前で、私はずっと張り番をしていた。周囲にはおよそ100人近くを数えるであろう報道陣。あてもなく数日間にわたって、朝から晩までひたすら待つという仕事だった。あるタイミングで実家のコメントや反応を取材したいのだけども、そのタイミングがいつになるかは状況次第。こういうことはよくあるのだが、とりわけ冬の日の張り番はつらい。
一番困るのがご飯とトイレである。交代要員が半日おきくらいにやってくる大新聞社や、いつ
もチームで行動するテレビの皆様方はいい。だけどうちの新聞がそんな優しい対応をしてく
れるはずもなく、私はずっとひとりぼっち。かといって現場を少しでも離れて、その間に動き
があったら取り返しがつかない。
というわけで、1人で現場に出されている記者同士は「弱小連合」を組むことがしばしば。
どんな現場でも4-5人はこういう恵まれない記者がいるものなのだ。
「のど乾いたね」
「じゃんけんで負けた人がジュース買ってくるっていうのはどう?」
「わかった。その代わりその間に動きがあったら、コメントとか教えて」
まあこんな感じ。会社には秘密だけど、つまんない競争をする状況でもないし…
そして張り番も3日目くらいになってくると、食事に関するストレスがたまってくる。
コンビニで買いだめしたパンやおにぎりで一日を過ごすのはしんどいのだ。
「なんか温かいもの食べたいよね」。弱小連合の間ではひそひそ話が始まる。
…と、そこにピザ屋さんの配達のミニバイクが通りかかった。おもわず声をかけて止まってもら
い、メニューのチラシを一枚頂く。私たちの狙いは、この現場にピザを配達してもらうことだ。
しかし、ここは都内でも屈指の高級住宅街のど真ん中で、しかも路上。
果たしてちゃんと届けてくれるのか…
じゃんけんの末に負けた私が代表してピザ屋さんに電話を掛けた。
「あのー、実は●●邸の前の路上にいる報道陣なんですが、ピザを届けて頂くことは可能
ですか?」「はっ?えっと…店長に代わります」。
電話に出た女の子はあわてる。そりゃそうだよなあ。
しかし店長はさすがに違った。
「店長の××です。配達させて頂きます」。なんて頼もしい!私はこみあげるうれしさを胸に
注文をはじめた。
「えっと、この4種類の味のやつをLサイズで一枚と、サイドメニューのサラダと…」
「わかりました。あっ、お客様、実はキャンペーン期間中でドリンクをサービスしているの
ですが…何になさいますか?」
予想外の展開に少し戸惑う私。ドリンクといわれても、今、寒さで凍えそうなんですけど…
「あのー、ドリンクって冷たいやつばかりですかね」
「はい、コーラとかウーロン茶とかオレンジジュースなどがございます」
「申し訳ないのですが、私たち、朝からずっと外で立ちっぱなしで寒くて寒くて、とても冷たい
ものを飲める状況じゃないんですよ…」
「そ、それはそうですよね…」
今度は店長さんが戸惑う番。少しの間、電話の向こうで沈黙していた彼はこんなことを言い
出した。「わかりました。途中のコンビニでホットの缶コーヒーを買って参ります。それで
どうでしょう」
店長最高!プロのピザ屋のサービスを見た気がした。
約30分後、弱小記者たちが路上で車座になり、ピザをむさぼり食いながら感涙にひたった
のは言うまでもない。
それからというもの、私はピザーラのファンです。