高校時代の同級生から電話がかかってきた。彼は現在、某国際機関の東京事務所勤務。
お互いに忙しいのでなかなか会う機会が少ないが、信頼できる友人のうちの一人だ。
「今日はちょっとお願いがあって電話したんだ」と彼。なんだろう…
「うん、何でも。できることなら」
「実はうちの本部の偉い人が来日するのだけど、彼が今取り組んでいるテーマが日本の将来
像というレポートなんだ」
「へー。ちょっと面白そうだね」
「そうだろ。彼はけっこう大物だし、エキサイティングなものができるんじゃないかって言われて
る。俺はちょっとだけそれに噛んでいるんだ」
「相変わらず仕事のスケールが大きいな」
すごい奴だなー、偉いなーという気持ちのまま、全く無防備状態の私に対して、彼は突然、
思いがけないことを切り出した。
「彼がレポートを作るにあたって色々な日本の有識者に会いたいって言っているんだ。なるべ
く幅広くモノが語れて、しかも若い人がいいって言っている。個別じゃなくて、何人かを交えた
座談会形式にするつもりらしいけど…。そこでお前、会ってくれないか?」
「えーっ!?。俺、全然、有識者でもなんでもないよ!ただの鉄砲玉だよ」
「いや、いいんだよ。ほら、最近、いろんな担当をしているって言ってたじゃないか。家族論か
らイラク問題から、地震や災害や、社会問題とか…」
「そりゃそうだけど…」
「ぜひお願いしたいんだ」
うーむ。多分に過大評価のきらいはあるけど、とっても光栄な申し出。そもそも、その偉い人
とは、普通で考えたら会うことすら難しいだろう。文字通り、全世界を対象に仕事をしている人
というのはどんな人物なのか、私としても興味が湧く。
しかし…。
ひとつ、重大なことを彼に告白しなければならなかった。
「ゴメン…。俺…英語できない」
「えっ?ウソ?」。絶句する彼。
「だってイラクとかUAEとか取材してたじゃん。イギリスでも何か研修を受けて資格も取った
って言ってたじゃないか」
「アラビア語圏は、大手を振って通訳を雇えたんだ…。イギリスの時は同時に受講した英語が
得意な先輩記者にアンチョコを作ってもらって、なんとかしのいだ」
「……」
「個別のインタビューなら、うーん、誰かが付き添ってくれれば何とかなるかも知れない。
でも複数の発言者がいて会話がクロスするような状態だと…全くだめだ。ほんと無理。ゴメン」
説明しながら、自己嫌悪に陥りそうなくらい情けない…
という訳で、せっかくのありがたい申し出を断る羽目になった。
あーあ、我ながら本当にやれやれという感じ。
英語なあ…
せめてもうちょっとマシにしとこうかなあ。