なんか、ことあらばペンギンの話ばっかりしているような気がする。
でもなんにしろ、
この映画は見逃せない。
同じゼミで過ごした仲間とのプチ同窓会で、ちょっとぶりの京都。
運良く今はちょうど蛍の季節と重なっているから、みんなで哲学の道に足を向けた。
疎水の小さな流れに沿って、そこかしこに小さな光。
「毎年、見に来たよな」って懐かしみながら,ゆっくり歩く。
やっぱり京都はいいなあ。
6月も中旬。会社ではそろそろ、夏休みの予定についての調整が始まる。
はっきり言って、超重要である。
新聞社というところは、世界で一番封建的なんじゃないかと常々感じるのだけれども、特に「休み」ということになると、そのデメリットが噴出する危険性が非常に高い。
今はだいぶ少なくなったとはいえ、やれ「俺は新婚旅行の最中に事件が起こって呼び戻された」だの、「俺は一年で365日、夜回り(取材先の家を夜に訪ねて話をきくこと)をした」などという自慢がそこかしこに転がっている。そしてそういう人に限って、部下の記者のプライベートもぎりぎりと締め付ける傾向がある。名目上はきちんと休みを取ることになっているのだが、現実には直属のキャップなどの性格によって下っ端記者たちの休みの過ごし方が大幅に変わってくる。
さて今年の場合。とりあえずみんな一週間ずつは休みを取れることになったのだが、その後、問題が発生した。うちのチームを取り仕切るキャップが「何が起こるかわからないから、海外に行くのは禁止」と言い始めたのだ。これはきつい…
そもそも海外に行こうとしていたかどうかは別にして、休み中の行動に制限が加えられるということ自体が私たち下っ端記者を限りなくブルーな気分にさせる。案の定、2年後輩のK記者なんて既にため息しか出ていない…
キャップが外出した瞬間、彼は私に話しかけてきた。
「ほんとに海外、絶対にダメなんですかねぇ」
「なんか、そんなこと言ってたよな」
「ほんとにダメなんですかね」
「いや、俺に言うなよ」
「僕、雅子さまのお気持ちを察しますよ…はぁ…」
中国に留学経験もあり、アジアが大好きなK。例え話は新聞記者とは思えないほどわかりにくいが、どうやら「自由に外遊ができないストレスなどから心を病んでしまったといわれる皇太子妃の雅子さんくらい、自分はとても心苦しい」ということが言いたいらしい。とにかく激しく落ち込んでいることは痛いほどよくわかる。それに…うん、私に何とか交渉してくれってことね。はいはい、わかったよ。
今のキャップは海外旅行とかには特に興味のない人。おまけに「万が一」というのが口癖の性格だから、かなりの難敵である。しかしかわいい後輩のために、いや、私自身の夏休みの充実のためにも、ここはひと肌脱がねばならない。
戻ってきたキャップに早速、話しかけた。
「夏休みのことなんですけど…」
「おお、早く予定出してくれよな」
「いや、それはそうなんですが、やっぱり大事件があったら帰ってくるわけじゃないですか…」
「そりゃそうだ」
「急に呼び出されても、実際に戻るのはどうしても翌日になってしまいますけど、それは仕方ないですよね」
「まあ、それは仕方ないよな」
「ですよねえ」。心の中でガッツポーズ。まずは、キャップから「事件発生の翌日に帰って来れば良い」という言質を取ることに成功した。あとは物理的に、どの地域なら翌日に帰ってこれるのかということを慎重に説明していけば良い。私の狙いは少なくともアジア圏での旅行許可なのだ。
最近の航空機事情の便利さや、海外でも携帯電話は使えることまで、各種の情報を駆使して話し始めること数時間(断続的にだけど)。「ふうん、なんか国内とあんまり変わらないんだなあ」というキャップのつぶやきに、すかさず「そうなんですよ。だから夏休みも一日で帰ってこれる範囲でってことにしましょう。アジアだったら問題ないですよ」と強引にまとめた。分かったんだか分かんないんだかはっきりしない表情で「そうだなあ…」とうめくキャップ。交渉成立である。やったね。
再びキャップ不在の記者クラブ。一部始終を見守っていたK記者が目をきらきらさせながら「ありがとうございます」と最敬礼してきた。
「なんとかしたろ。ともかく鎖国政策は打ち破った」
「いや、さすが…今度、焼肉おごらせて下さい」
あとは夏に大事件が起こらないことを祈るのみ。
しかし、ちょっと海外旅行をする許可を得るだけでこれほどの労力を使うとは…ほんと何時代だかわからない…
下っ端記者の基本的人権獲得の戦いは続く。
近所に住む友人のM夫妻が「ただで豪華な食材が手に入った」と、我が家にやってきた。
和牛のステーキにウナギ、たっぷりのイクラ…
ごちそうだらけの日曜日の食卓。持つべきものは友である。
あつあつのご飯に、誰にも遠慮することなくイクラを山ほどのせると、それだけで幸せな気分になる。ごちそうでお腹がいっぱいになった後は、ゴールデンウィークに買ったばかりの室内用ハンモックに揺られてお昼寝…
こんな休日、最高だなあ。
そういえば先週の土曜日も後輩記者の家でたこ焼きホームパーティーにお呼ばれして、すっかりくつろいだっけ。…いや、あのときはしたたかに酔っぱらった頃合いを見計らったかのように携帯電話が鳴って事件発生を知り、現場に駆けつけたんだった…。縁起でもないや。二度と思い出すまい。
と思っていたら案の定、電話が鳴った。別の後輩記者が申し訳なさそうな声で「えーっと、T市でちょっと事件がありまして…」。
人生の半分くらいの時間は、何かを探しているような気がする…
と、言うとちょっとカッコイイけれど、文字どおり私はよく落とし物やなくし物をする。予備校生の時はあまりに落とし物窓口に行くので、担当の事務のお姉さんに「また来たの?」と呆れられるくらい。東京で働いていたときは、家のカギをよく会社の机に置きっぱなしにしたまま帰宅して、仕方なく近所のカプセルホテルに泊ったことは数知れない。
こっちに転勤してきてから約2か月。しばらく「症状」は収まっていたと思っていたのだが、またやっちまった…。
仕事を終え、「今日はけっこういい仕事ができた」と上機嫌なまま行き着けのバーで飲み、そのままてくてく歩いて帰宅したのは午前1時前。ポケットを探るとカギがない。いくら探してもない。そこらへんに鞄を広げて何度みてもどこにもない…
結局その日は、会社まで引き返して会社に泊った。
ここまでならばまあ私にとって、それほど珍しいことではない(それもどうかと思うけれど)。
問題は次の日。
不動産会社とカギ屋さんを散々慌てさせた末に二日ぶりに帰宅した私は、さすがにくたびれて、仕方がないのでちょっとおいしいご飯を食べて元気をつけようと思い付いた。
「うん、こういうときはうまい飯に限る」
すでに日が暮れかけていて、簡単な荷物だけを持って家を出る。
徒歩で歩くこと数分、ふと携帯電話をみると、いつも付けているお気に入りのストラップが見当たらないのだ。「……」。実はこのストラップ、前にも買った直後になくして、購入したのは二度目のもの。「またなのか?」。さすがにため息が出た。
仕方なく今来た道をくるりと引き返し、歩道に落ちていないか確認しながら自宅までの道を辿る。歩いているうちに段々情けない気分になってきた。私はいったい何をしているのか…。結局、家の前まで戻ってきてしまい、その頃には自分で自分のことがほとほといやになってきた。こういう時の最後の手段はタバコである。
胸のポケットからタバコを出し、ライターで火をつけて…。…????
「今度はライターがない」。もう泣きそうな気分。
結局、ストラップは自宅のベッド脇に落ちていたのだが、自分のことをすっかり信用できなくなってしまった。とりあえず家のカギはもう二度となくすまいと決心した。
というわけで、今私は会社のIDホルダーをぶらさげるためのゴムひもを使い、カギを首からぶら下げている。かなり情けないものがあるけど、仕方ない。
とりあえず交通事故とかには絶対に遭わないようにしなくてはと堅く心に誓っている。
カギをぶらさげた状態で発見されるサラリーマンって…恥ずかしすぎる…